自然資本・生物多様性への対応について
1.はじめに
国際的には、生物多様性の損失を2030年までに止め、回復軌道に乗せることを掲げた「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、自然資本の保全に向けた取組みは企業の持続的成長に不可欠な課題となっています。こうした潮流と四国アライアンスの共通認識を踏まえ、当行は融資先における自然資本への依存・影響の把握に努め、ネイチャーポジティブの実現に向けた取組みを推進してまいります。
こうした考えのもと、当行は自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の理念に賛同し、同フレームワークに基づく開示を推進しています。自然資本への依存や影響、そこから生じるリスクと機会を適切に把握し、透明性の高い開示と経営への統合を通じて、持続可能な地域社会の実現と企業価値向上の両立をめざしてまいります。
2.四国ならびに徳島県の自然の状況
阿波銀行の主要なマーケットである徳島県は、世界最大級といわれる鳴門の渦潮、日本三大秘境の一つに数えられる、深い渓谷と大自然が残る祖谷(いや)等、類まれな自然美に彩られた地域です。また、吉野川下流域をはじめ、剣山系、そして鳴門や室戸阿南海岸一帯は、生物多様性を保全する上で極めて重要な地域として認識されています。
この豊かな自然は、地域の人々の暮らしや文化を育むとともに、貴重な生態系サービスを提供する「自然資本」として、その重要性がますます高まっています。
3.自然資本におけるリスク・機会の評価プロセス
*1 Taskforce on Nature-related Financial Disclosures (TNFD) Recommendations、Guidance on the identification and assessment of nature-related issues: the LEAP approachおよび、Additional guidance for financial institutions
LEAPアプローチは、以下の4つのプロセスを通じて、自然関連の課題を戦略的に紐解く手法です。
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Locate(自然との接点の発見)サプライチェーンを含む当行ならびに投融資先の事業活動における潜在的な自然への依存・影響を抽出し、その発生源となる場所を特定の上、優先順位を決定します。
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Evaluate(依存と影響の診断)特定された自然との接点において、事業活動が自然から受ける恩恵(依存)と生態系に及ぼす作用(影響)を定量的・定性的に診断します。
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Assess(リスクと機会の評価)依存と影響の評価に基づき、事業における物理的リスクや移行リスク、および自然関連の新たな事業機会を特定します。
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Prepare(対応と報告の準備)分析結果を経営戦略に反映させ、ステークホルダーへの情報開示に向けた準備を行います。
図1.LEAPアプローチ概念図
本年度は、融資ポートフォリオにおける潜在的な自然への依存・影響の把握、優先セクターの選定、ならびにバリューチェーンにおける自然への依存・影響経路の特定を実施しました。現時点で特定された重要事項を、当行の戦略の基盤として以下の通り開示いたします。
今後は本分析結果をもとに融資ポートフォリオにおけるリスクと機会を特定し、融資先とのエンゲージメントを通じて、地域社会とともにネイチャーポジティブの実現に向けた取り組みを推進してまいります。
Locate(自然との接点の発見)
<依存と影響のスクリーニング>
金融機関である当行においては、自社の事業活動による直接的な自然への依存・影響よりも、投融資先の事業活動を通じた間接的な自然への依存・影響のほうがはるかに大きいという特徴があります。そのため、本分析では国際的な評価ツール「ENCORE」*2を活用し、TNFDが定義する潜在的に重要なセクターに属する融資先(個人を除く)を対象に、自然への依存・影響を評価しました。各セクターの依存・影響度と当行の融資エクスポージャーを掛け合わせた分析により、融資ポートフォリオにおける潜在的なリスクを把握し、優先的に分析を進めるべきセクターを特定しています。
*2 ENCORE (Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure): UNEP-WCMC等が開発した、自然資本への依存・影響を評価するツール。事業セクターごとに、享受する生態系サービス(依存)と、自然への負荷要因(影響)の双方を特定できる。
図2.セクター別融資残高割合と自然への依存・影響
分析の結果から「食品・飲料」ならびに「素材」は、融資残高割合が一定量以上を占めており、自然への依存・影響が大きいことが確認されました。また、自然への依存・影響度が相対的には高くないものの、融資残高割合が大きいセクターとして「運輸」、「不動産管理・開発等」、「ユーティリティ等」が確認されました。
これらに加え、すだちや生しいたけ、鳴門わかめといった主要な生産物が豊かな自然資本の恩恵を受けているという徳島県特有の地域特性を重視し、優先セクターとして「食品・飲料」を特定しました。
Evaluate(依存と影響の評価)
優先セクターである「食品・飲料」を対象に、当行の融資ポートフォリオに基づくバリューチェーンを整理し、川上から川下に至る各関連業種の自然への依存・影響を評価しました。この分析を通じて、バリューチェーン全体における依存・影響経路を特定しています。
図3.食品・飲料セクターのバリューチェーン
図4.食品・飲料セクターのバリューチェーンにおける自然への依存
図5.食品・飲料セクターのバリューチェーンにおける自然への影響
分析の結果、「食品・飲料」ならびにバリューチェーンにおける関連業種は、いずれも自然への依存・影響が中程度以上*3であることが確認されました。
*3 依存または影響のスコアが「High」以上の項目があれば「大」、「Medium」以上の項目があれば「中」(「大」に該当する場合を除く)、それ以外を「小」と定義した。
<自然への依存>
食品・飲料セクターは、バリューチェーンを通じて多様な生態系サービスに依存しており、それらをもたらす自然資本の健全性は、地域経済および事業継続を支える基盤となっています。本分析により特定した、主要な依存経路は以下のとおりです。
水質浄化、水供給、水流調整サービスへの依存
食品・飲料の製造ならびに飲食店や宿泊施設での調理、清掃等において、清浄かつ安定的な水供給が不可欠であり、水質浄化や水供給、水流調整等の生態系サービスに依存しています。そのため、当該セクターの事業基盤は、吉野川に代表される徳島県の豊かな水資源に深く依存しており、その保全は事業継続における重要課題であると認識しています。
文化的サービスへの依存
景勝地や自然環境を活かしたレジャー等の「文化的サービス」は、宿泊施設や飲食店における顧客誘致の源泉です。こうした事業モデルは、地域の豊かな自然資本に深く依存しており、自然環境の質的低下は直接的な事業価値の毀損につながるリスクがあると認識しています。
農産物・サービスの広範な生態系サービスへの依存
農産物の生産プロセスは、水資源の供給に加え、土壌の肥沃度維持や堆積物保持、有機肥料等のバイオマス供給といった多様な生態系サービスに依存しています。これらは、森林、河川、農地が一体となった地域固有の生態系によって供給されるものです。徳島県の広範かつ多様な自然資本は、当セクターの持続可能性を担保する不可欠な事業基盤であると認識しています。
<自然への影響>
食品・飲料セクターの事業活動は、原料調達から製造、廃棄に至るバリューチェーン全体において、陸域・水域の利用や汚染物質の排出等を通じて、自然資本に対し直接的・間接的な影響を及ぼしています。本分析により特定した、重要度の高い自然への影響経路は以下のとおりです。
富栄養化物質の排出
飲料製造プロセスから発生する排水には、有機物や窒素・リン等の栄養塩類が含まれています。これらが公共用水域へ過剰に排出されると、水域の富栄養化を招き、結果として水質の著しい低下や生態系バランスの乱れを引き起こすリスクがあります。当セクターは清浄な水資源に深く依存しているため、自らの事業活動による水域環境の悪化は、事業基盤である自然資本を自ら毀損することに直結します。
農産物・サービスの広範な自然資本への影響
農産物の栽培において、過度な取水による水資源への負荷や、肥料・農薬の使用に伴う水質・土壌への影響は、地域の生態系を劣化させる影響経路となります。また、肥料や家畜排泄物由来のアンモニア等の排出による大気環境へ負荷は、当セクター特有の影響経路として認識しています。これら広範な環境負荷の蓄積は、農産物の収量低下や規制対応コストの増加を招く潜在的な要因となり得ます。
4.今後の展望と課題
今回のLEAPアプローチを通じた自然への依存・影響の特定および評価は、当行の主要なマーケットである徳島県を支える自然資本の価値を再認識し、その持続可能性を確かなものとするための重要なプロセスとなりました。本報告における開示を起点として、今後はTNFDが定義する「生態学的に影響を受けやすい地域」の特定や、自然関連のリスクと機会の特定に向けた調査・分析を継続してまいります。
あわせて、地域社会を含む多様なステークホルダーとの連携を通じ、投融資先のお客様とともにネイチャーポジティブの実現に向けた取組みを推進してまいります。
